今回は今話題のYouTuber市場について、4月13日に発表された国内No.1のYouTuber事務所であるUUUM社の「2018年5月期第3Q決算説明資料」から見ていきたい。
前提として国内のYouTuber市場規模について、若年層マーケティング事業を手掛けるCA Young Lab・デジタルインファクトが共同で調査した結果、2017年は219億円(内訳はYouTube広告139億円、タイアップ広告63億円、イベント・グッズ等が17億円)の市場規模。
2015年は33億円ほどしか無かったと見られているため、飛躍的に成長している。
さらにチャンネル登録数の状況は、登録者が1万人以上いるチャンネルは2017年12月時点で4,063(内訳は1万以上2,692、10万以上859、30万以上283、50万以上166、100万以上63)となっており、毎年150%以上の大幅な増加を続けているという。
YouTuber業界といえば、UUUM社のライバルになっていくだろうと言われたVAZ社に所属するヒカル、ラファエル、いっくん(禁断ボーイズ)が昨年、炎上騒動で勢いが衰えた感がある。
それもあってYouTuber事務所はもはやUUUMの一強状態と言っても過言ではない。そんなUUUMの業績から市場の状況を把握していきたい。
No.1YouTuber事務所 UUUMのクリエイターの状況
チャンネル登録者数ランキング
YouTuberの人気を測る指標として、「チャンネル登録者数」と「動画の再生回数」があるが、UUUMの開示資料からチャンネル登録者数を見ると、以下のとおり。
引用 UUUM社決算資料(以下、同様)
なんと国内TOP10のチャンネルの内、8割はUUUM所属のクリエイターのチャンネル。他はエイベックス公式チャンネルと最近急上昇している子供向けチャンネルの「キッズライン♡Kids」のみだ。
さらには100位の内、4割もUUUM勢のチャンネルで占められている。
これに続く11位がVAZ社のヒカル。VAZ社は他に禁断ボーイズが189万登録で24位、ラファエルが169万で33位と続く。
特にヒカルの場合、炎上騒動直前にはチャンネル登録数が270万に届くところだったのが、その後激減。高評価率は今年に入ってやや持ち直してきたが、一時期の勢いは全く感じない状況だ。
それどころか勢いづいているのはバーチャルYouTuber勢。

2018年1月のYouTuberチャンネル登録増加数ランキングで上位10人の内、半数がバーチャルYouTuberになったことは先日の記事でお伝えしたとおり。
チャンネル開設は活動開始の早かったNo.1人気のキズナアイが2016年だったことを除けば、他の人気チャンネルの多くは2017年や2018年からスタート。にも関わらず、チャンネル登録数は急上昇。現在、全体のチャンネル登録数でバーチャルYouTuberのTOPは31位のキズナアイだ。
この勢いが続けば、年末には事務所は別だがバーチャルYouTuber勢がUUUMの大きなライバルとなっていくかもしれない。
動画再生回数と期末チャンネル数
UUUMがKPIに置いているのは3ヶ月合計動画再生回数と期末チャンネル数のようだが、新たなチャンネル企画を考案したり、所属クリエイターを増やしたり等でUUUMが抱えるチャンネル数を増加。
そしてYouTube市場が成長し続けていることもあるが、UUUM所属クリエイター同士で共演したり、紹介し合ったりしてシナジー効果を上げ、再生回数を右肩上がりに伸ばすことができているようだ。
UUUMのビジネスモデル
UUUMの主なビジネスモデルと売上・原価項目は以下のとおり。
ビジネスモデルの概要
UUUMとしては7つのビジネスモデルを上げているが、今のところYouTubeの視聴の間などに挟まれるアドセンス広告が売上の57%を占め、クライアントからのタイアップ広告が31%を占めている。つまりほとんどが広告売上となっている。
ビジネスモデル別売上推移
しかし今後、事業として利益を生む源泉が、まだ売上の1割程度である他のビジネスモデルにあると考えている。
いくつか事例について見てみよう。
タイアップ広告の事例
例えば所属クリエイターが「壱岐島」で「リアル型脱出ゲームをやってみた」として観光アピールに繋げたり、タカラトミーの商品をキッズの視聴者が多いチャンネルで紹介するなどしているようだ。
商品紹介のタイアップ広告はTVでもインフォマーシャルなどでよく見受けられるが、地上波では子供が子供向け商品を紹介するコーナーなど枠が仮にあっても少ないだろう。
また地上波などと比べて放送法の縛りも今のところ無いため、比較的自由な番組作りもできそうだ。
ゲーム事業の事例
ゲームのビジネスモデルの面白いのは、多くのYouTuberはゲーム会社から広告費を貰ってゲームをPR。ヒカルもしかり、先ほどのタイアップ広告のモデルに留まっている。
UUUMの場合は例えば、上記のゲームは主にヒカキンがプレイし、ゲーム実況。
ヒカキンとしては動画制作の良いネタにもなって広告収益が上がる。同時にUUUM社が開発したゲームのプロモーションにもなり、ゲーム売上を伸ばすことができるというYouTuber事務所ならではのビジネスモデルとなっている。
結果として昨年末のクリスマス前後の各企業が広告出稿を強化している中で、AppStoreでは無料ゲームランキングで2位、GooglePlayは1位となり、凄まじい広告効果があったと言っていいだろう。
同業に近いAppBankも同様のモデルでマックスむらいが自社開発ゲームの実況を行っているが、会社側のスキャンダル的な報道もあり、ファン層の中心だったチビッコ層が離れてしまい、すでにチャンネル登録数はキズナアイにも抜かされているようだ。
YouTuberとしては広告収益が上がり、年収○億円を目指せば良いかもしれないが、UUUMのような事務所にとっては会社の営業利益率を上げるためにも、こういったゲーム事業の業績をいかに伸ばせるかどうかがカギになるだろう。
イベント事業
個人的に今後伸びていきそうだと感じているのが、このイベント事業。
まだまだ動員数は少ないように見えるが、ヒカキンやはじめしゃちょーなどの人気クリエイターが上記には出演していない。
ここに可能性を感じているのはそれだけでなく、例えばアーティストの事務所とレコード会社の機能などを網羅的に持っているエイベックスは今やイベント事業が売上の柱。直近では売上の38%をイベント事業が占めており、CD・DVD・音楽配信を合わせた売上よりもシェアを占めているのだ。
今後、イベント事業を強化していくことで売上だけでなく、ファンへの距離感が近くなることで所属クリエイターの人気がさらに高まり、動画の再生回数だけでなく、グッズ販売やファンクラブ収益も上がっていくだろう。
問題はハコ(会場)の確保。5大ドームなど、大きなハコはかなり前もってスケジュールが大手アーティストなどに抑えられている。ヒカキンやはじめしゃちょーなど、UUUMの所属クリエイターが揃えば、相当大きなハコが必要だろう。
そのため比較的中小規模のイベントで経験を積みつつ、大規模会場の準備するという時期がしばらく続くかもしれない。
年間業績予想は上方修正
最後に業績について今回は3Q の発表だったが、これを元に通期計画を上方修正。事業は計画よりも好調のようだ。
営業利益率が低く見えるかもしれないが、原価のクリエイター報酬が重く粗利率は通期新計画で29%ほど。さらに年間で約12億円程度の広告宣伝費を積んでいるのが影響している。
クリエイターへの報酬は契約によって違うようだが、ヒカキンやはじめしゃちょー等の人気クリエイターからはあまりマージンが抜けないだろう。これは芸能界と同様。
ただ今後、ゲーム事業などがヒットすれば、一気に利益率は改善していくはず。
イベントなどは先ほど上げたようにハコの確保に時間がかかりそうなので、短期的にはゲーム事業の成否が業績や株価に影響を与えていきそうだ。